赤おに対談
  おにをめぐる冒険 その1
『ないた赤おに』発売を直前に控えた早春の一夜、都内某所(場所、店名は内緒ですが、極うまのお寿司屋さん)で、『赤おに』完成を祝って小さな対談を開きました。

出席者は、ひろすけ童話絵本のプロデューサー、ユトレヒトの江口宏志さんと、『ないた赤おに』の画家 nakabanさん。

翌々日からのロンドン出張を控えた江口さんと松江でのワークショップから帰京されたばかりのnakabanさん。
忙しいおふたりのスケジュールがあうこの機を逃してなるものかと、編集部が半ば強引にセッティング。
でも、本当に素敵な時間になりました。
   
極うまのお寿司屋さんにて・・・
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  ――刷り上ったばかりの表紙を見ながら
表紙の赤おに、目が描かれてないですよね、なんで描かなかったんですか?
これは狙ってこうしました。
赤おにっていい人じゃないですか。
けれども表紙にはそういった部分、いい人だとか、性格的なものを出したくなかったんですよ。
今回改めて思ったけど、目ひとつで、表情とか、がらっと変わる。
怖いよね、目って。
だから、この絵を見たとき、なるほどねって思った。
表紙も含めて、おにの造形にはとことん悩みましたよね、みんなして。
時間の経過とともに、いろんなおにのいろんな感じがでてきましたよね。
これだけいろいろnakabanワールドを楽しめてよかったというか(笑)。
僕も楽しみましたよ(笑)。
最初はロボットみたいなおにだったんですものね。
あれ、すごい好きだったんだけど、私。
ものすごく新しいと思った。
あれが出てたら、かなりの問題作だよね。
おには宇宙人でもなく、ロボットだった(笑)。
やっぱり、絵本の内容からすると問題作にしちゃいけないっていうか(笑)。
絵だけが問題作になっちゃいけない。
そういう性格の絵本じゃないですよね。
 

おにって想像上のものだから、それこそロボットでもいいのだけれど、みんなの中にある、受け継がれているおにの姿とnakabanさんのイメージするところの折り合いが徐々についていったというのがこれ(絵1)なんだろうね、きっと。

絵本つくりのスタート地点に立つ前が大変だったというか。
おにってなによ、というところが難しかった。夢でうなされるくらい。
編集部にはあったんでしょ?
それにみんな結構・・・ (言外
――振り回されて?)。
男前のおにってとかってどんな?とか。
いろいろ考えちゃった。
ハイ、すいません。
「青おにはイケメンじゃなきゃ嫌だ」とかわけのわからないことを言ったのは私です。本当すいません。
子どもの頃から青おに好き(笑)。
青おにってカッコいいってずっと思ってました。
このお話の中にも、風景とか情景とか気持ちはすごく書いてあるんだけど、おにの外形みたいなものはあんまり描いてないんだよね。
つのが何本とか。外
形の描写はほとんどないですよね。それは彼(浜田廣介氏)の作戦っていうか。
そこは想像力で自分なりのおにを意識してほしいっていうことかなあって。
絵本はそこを絵にしていかなきゃいけないから難しい。
今回最初に作画して気がついたことは、絵を作るときって「形」と「色」っていうのが、大きな要素じゃないですか。
ぼくは今まで「形」でアプローチしていたんですよ。
最初のロボットのときもそう。
だけど今回は赤と青(注;童話は赤おにと青おにの物語です)っていう、キーワードもあるし、ちょっとどこか遠くの世界で起こっているひとつの物語という雰囲気を大事にしたかったんで。
だから色の世界で表現してみたいなあって。
それが、輪郭をあえて表現しにくい色鉛筆を選んだきっかけでもあるし。
オランダのレンブラント社製とおっしゃってましたね。
すごくやわらかい線が出て。
それをまた夢のベールで包むように、デジタルの力も借りてるっていうことですよね。
だけど考え方はすごくアナログで。影絵、セロファンの影絵ありますよね。藤城清治さんみたいな、そういうのを作るっていう感覚でやってみたんです。
特に赤っていう色、赤って朱色に近い赤と赤銅色に近い赤―暗めの赤と全然印象違いますからね。
生き生きとしているように見えるか、ちょっと翳りがあるように見えるか。
全然違う。
そういうのをデジタルで出しました。
青もなんか変わった青って気がするけど。
僕にとっては結構なじみの青だけど、あんまりきれいな青じゃないよね。
どっちかっていうと赤青鉛筆の、赤と青って感じで、群青色に近いっていう青ですよね。
群青色に近い色っていうのがなんとなく青おにのがっちりとした性格と落ち着きが出るんじゃないかって思って。
あんまりきれいな青じゃだめなんじゃないかって。
さわやかな人物ってわけでもないし。
ある意味頑固っていう。
そうですね。
なんとなくわかりにくいかもしれないけど、岩っていうイメージがあって。
住んでいるところも岩の家だし。
青おにの考え方というか、落ち着きもどっしりとした岩のような感じだから、ちょっと岩の化身みたいな。


フーム!!
口もむっってなってるし。
体系もがっしり型だしね。
筋肉質な感じ。
逆に赤おには若くて傷つきやすくてという。
だからフレッシュな赤がいいんじゃないかなあって。
nakabanさん、どの絵がいちばんお好きとおっしゃってましたっけ?
絵1
やっぱり、この絵(絵2)とか、すごい好きなんですよ。
何でかっていうとこの絵がきっかけで、この絵本のできる方向性が決まったんですよ。
やっぱりこのさっぱりした画面というか、あまり描いてないのにやりたいことが出たとか、進むべきベクトルが出たという絵はいちばん力が強いなと思います。
こういう要石のような絵があって、それはみんなあんまり手を加えてないんです。
で、その後に、流れのなかでやっぱり手を加えていったほうがいいなという、そういうところはほんとうにデザイン的な作業で。
これ(絵3)なんかもおもしろいよね。
白地のバックを反転させてる。すると、まるで子どものころにやった、最初にいろんな色を塗って黒のクレヨンで塗りつぶして、その後、引っかいて描いたみたいな絵になる。
nakabanさんらしい、すごく。
やっぱり自分自身の経験というのもどっかにあって、カメラに興味を持っていたりしたときに、日の出の写真が撮りたくて夜が明ける前に家を出るわけですよ、外はまだ夜なんだけど、もうすぐ世が明けるみたいな。
この絵のイメージですね。
木とか花とかももう少ししたら目が覚めるみたいな気配というか。
さすが詩人だよ、すごい。
そういうのとか思い出したりして。
すばらしい!!
   
絵2
絵3
  ―― nakabanさんが詩人だと深く感心した一同。
この後、浜田廣介さんの「ひろすけ童話」がいかに力を持っているかに話題が移りますが、以下、次回に。
   
次回につづく
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「集英社 ひろすけ童話絵本」原画展
おにをめぐる冒険 その2 ひろすけ童話絵本 おにをめぐる冒険 その1