・頭にすいすい入る、齋藤孝のおもしろ解説。
教育者・齋藤孝は生徒の気持ちがよくわかる。エンターテインメントにも造詣が深く、面白い、好奇心を刺激する解説を書く。本書より野口雨情/作詞『黄金虫』(こがねむし)の解説を引用。

“重大情報があります。この『黄金虫』って実はゴキブリのことじゃないかという説が有力なのだ。ッガーン。野口雨情の出身地の北茨城地方ではゴキブリのことをコガネムシと呼ぶ。ゴキブリは蔵があるくらい裕福な家にしか住み着かない。この歌が歌われた当時のふつうの家はすきま風が寒くって、ゴキブリも逃げ出すくらいだったらしい。ゴキブリが家にいる=金持ちの証拠。それを知ってから歌うとホラーソングに聞こえてくるだろう? ほんとかどうか、作者の雨情さんに聞いてみたい、むりか。ちなみに雨情さんちは、金持ちだったらしい。”

宮沢賢治、中原中也、『平家物語』、夏目漱石、松尾芭蕉、『方丈記』、『土佐日記』、『風姿花伝』、『学問のすゝめ』、与謝野晶子『君死にたまふこと勿れ』、斎藤茂吉などなど。齋藤孝の解説は文学の核心に鋭く迫り、且つ平易に簡潔に表現している。

・リズミカルで面白い、古文の口語訳。
名作は、読んで退屈させないもののはずです。でも、おおかたの古文の口語訳はしごく退屈。どの本も似たり寄ったりの表現。名作の口語訳なのだから、面白くなかったらおかしいと私どもは考える。読み慣れた口語訳とは大きく異なります。本書にある『徒然草』の冒頭「つれづれなるままに、ひくらし……」の口語訳を引用。

“すんごいヒマだからなんか書いてみよう。一日中、硯で墨をすって、心に浮かんでくる、とりとめのないことを、片っぱしから紙に書いていると、……どういうわけだか、書きたいことがあふれてきて、クレイジーな熱い気分になってきたぜ!”
『学問のすゝめ』の口語訳も中々イケテます。

さらに、お楽しみ付録的に、巻末には「星座別アーティスト・データ」があり、「文学」を徹頭徹尾楽しんでもらいます。「星座一覧表」を見ると、しし座のアーティストがひとりもいない。何故か? 「享年一覧表」を見ると、老いも若きも、アーティストの没年齢と自分の年齢を比べてみたくなり、何故か安心したりしんみりしたり焦ったり、です。  次へ


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