第四章

われわれの目論見は思い込みで終わっていない。
読者も理解してくれました。
以下の文章は、二十代前半の男性が書いた感想文である。

  晴れの日は外で走りまわり、雨の日はファミコンや漫画を楽しむ子どもだった。けれど、もしもあの頃の自分がこの本を手に取っていたら、間違いなくそこに「文学」という選択肢が加わっていただろう。この本には、子どもを「文学」に向かわせるのに充分な力があるように思う。

  久しぶりに宮沢賢治の「雨ニモマケズ」を読んで、鼻の奥がツーンとした。その内容もさることながら、私の心を動かしたのはこの本独特のレイアウトである。賢治の熱い想いが迫ってくるようなシンプルかつ力強く大胆なレイアウトは、見る者を圧倒する。そして、文学の持つ素晴らしさを助長するこうしたレイアウトは、この本全体の特徴でもある。内容に合わせてユニークに文字が配置されていたり、白黒反転していたりと読んでいて飽きることがないし、その世界にぐいぐい引き込まれる。私のお気に入りは、中原中也の「ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん」と金子薫園の「かたりことり」だ。そのページを見て、様々な想像を巡らせる。「これは何を表現しているのだろう」、「どんな風景だろう」と。そして、次のページをめくって答えを知る。間違っていても楽しいし、そうやって一段階踏むことで記憶に深く刻みこまれるようになると思う。この本のテーマでもある「暗誦」にも効果的なのではないだろうか。

  この本を読んでいて感じたことがある。それは、文字は「記号」でもあり「楽器」でもあるということだ。とにかく各ページからその世界が奏でる音が溢れてくるように思えてならない。その音はもちろんそのページに配置されている文字から発せられている。本を読んでいて、文字から音が流れてくるように感じたことは今までなかった。重複してしまうが、これもこの本独特のレイアウトによるものなのだろう。名文から溢れる音をBGMにしながら、その世界に浸ることができるなんてとても幸せな本だと思う。子どもだけでなく、大人にも是非読んでもらいたいという想いが伝わってくる。

  掲載されている名文の中には、恥ずかしながら知らないものもちらほらあった。また、知っていても意味を勘違いしていたり内容や背景に対する深い知識のないものもあったりしたので、読んでいて本当に勉強になった。名文解説が端的で分かり易いので、帯にある「すらすら頭に身体に入ります」という文句にも頷ける。全国の子どもが「寿限無」を言えるようになったという事実が悔しい。負けてられないので、私もこの本を手に頑張って暗記に励みたいと思う。もちろん、「寿限無寿限無…」と声に出しながら。


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