集英社 コンパクト版『学習まんが 日本の歴史』

集英社版『学習まんが日本の歴史』(集英社新版)

学習まんが日本の歴史 総合アドバイザー 野島博之先生インタビュー学習まんが日本の歴史 総合アドバイザー 野島博之先生インタビュー

――はじめに、本シリーズの総合アドバイザーになられた経緯について教えてください。

 ぼくはふだん、大学入試のための予備校で講師をしているので、はじめは「子ども向けの本をなぜ、ぼくに?」と思ったんです。でも、日本史の世界には、実は間違って広く伝わってしまっていることがたくさんある。たとえば、有名なのが遣唐使の話です。遣唐使は「危険だから」廃止され、それによって「大陸との交流がなくなったから文化が国風化した」と思いこんでいる人がよくいるんです。でも、廃止した本当の理由は、そんなことをしなくても大陸から商人が続々とやってくるようになったからであって、大陸との交流は遣唐使の廃止後、むしろ深くなっているんですよ。
 こうした誤解は、早い段階であるほど記憶の深いところに入ってしまうので弊害も大きく、そのまま勉強していくと、誤解に誤解が重なって理解がゆがんでしまいます。だから、子どもの頃にこそ誤解を解いてあげる必要があるんです。こうした事情から、今回のお話に大きな意義を感じました。

――今回のシリーズは、全二十巻のうち、近現代のボリュームが多くなっていますね。

 巻立ては高校生の日本史の教科書でトップシェアの山川出版社刊『詳説日本史B』をベースにしているのですが、近現代のほうが現在につながる問題をたくさん包含(ほうがん)しているので割合を多めにしています。今、大学入試の日本史も近現代に重点を置く大学がかなり増えてきているんですよ。こうした入試の実情も踏まえ、8巻分を充当しました。

――受験での学習も視野に入れているわけですね。では、教科書や図録とも違う、学習漫画で学ぶことのメリットとは、どんなことでしょうか。

 いちばんは、活字ほど子どもたちにとってハードルが高くなく、映像ほど受動的でない点だと考えています。そもそも漫画というのは、能動的な脳をつくるのにかなり役立っているのではないかと思うんです。というのも、優秀な子って、かなりの割合で幼いときに学習漫画を読んでいるんですよ。大好きなものはそれこそ百回くらい、ほとんど画像として記憶する勢いで読んでいたりします。ぼく自身もかつては漫画漬けでした。学習漫画をはじめ、人生に必要なことはすべて漫画で学んだと言っても過言ではないくらいです(笑)。

――漫画がそれほどに学習にも役立つ理由はどのあたりにあるのでしょうか。

 そんなに何度も読みたくなるのは、きっと読むたびに想像できることが違うからだと思うんですね。漫画って、映像などと違ってコマとコマの間の空白を自分で補わないと物語として消化できませんよね。空白があると想像する余地が生まれる。すると、脳もどんどん活性化していき、結果的に学習意欲の向上につながるんだと思います。

――学習意欲も刺激してくれるというのは、読者である子どもたちの親世代にとっても魅力的ですね。

 日本の歴史学の研究ってものすごく進んでいるほうなんです。それは平和であることの一つの象徴で、すでにかなりの数の史料が残っていますが、新たに「古文書(こもんじょ)が出た」となったら大勢の研究者が集まって、撮影したり文字に起こしたりして、それらを残そうとする。こうしたことをちゃんとしている国って、実はそんなに多くはないんですよ。
 これらの熱心な研究の成果もあって、日本史に対する認識や見解はここ数10年の間にかなり変化してきているので、現在の日本史は、今の40代以上の人たちが習った内容とは、だいぶ変わっていると思いますね。だからこのシリーズは、大人の方が読んでも「へえ~、そうだったの!?」と思うところがたくさんあり、楽しめるはずです。

 今回、ぼくが最初に編集部の方に伝えた方針は、子ども相手だからといってオブラートに包むようなことはしてほしくないということでした。蜃気楼(しんきろう)のような英雄譚(えいゆうたん)ではなく、厳しさを持った内容にするべきだと。これから生きていく世界が相当過酷なものに違いないということは、子どものほうがより直感的にわかっています。そこにお花畑みたいな話を持ちだしても、だれも振り向いてくれない。
 実際、人類史ってある意味、危機の連続ですよね。先人たちが生きた時代にもさまざまな危機や困難があった。たくさんの戦争があり、多くの人命が失われ、数え切れないほどの悲劇が存在した。そうしたものも正しく見せたいと考えました。そうすれば、次の世代も何も自分たちだけがとてつもない危機に取り囲まれた時代に生まれてきたわけじゃないと思えるはずだからです。きっと、この先何かしらの重大な危機や困難に見舞われたとしても、動じることなく、それなりの振る舞いができる。
 そうやって、この本を読みながら、やがて彼らが確実に直面することになる世界を多少なりとも予見し、危機を乗り越える力を育てることができれば、歴史の勉強以上の意味もあるだろうと思っています。
(構成・小元佳津江)

のじま・ひろゆき●
予備校講師。三重県生まれ。東京大学文学部卒業。専攻は日本近現代史。著書に『謎とき日本近現代史』『中学から使える 詳説日本史ガイドブック』等。

6.本のつくり