集英社 コンパクト版『学習まんが 日本の歴史』

集英社版『学習まんが日本の歴史』(集英社新版)

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『学習まんが 日本の歴史』は、いろいろな専門家の協力でできています。今回関わってもらったプロの方々に、この本にかけた思いや楽しかったところ、大変だったところについて聞きました。

という質問にも答えていただきました。

歴史のシナリオを書くというのは〝史実〞のみが淡々と書かれた教科書を、主人公のいる〝物語〞へと変えること。それをまんが家さんにひきつぐという仕事をしました。その過程はなかなか大変なものでしたが、「その一時代を最もおもしろく走り抜けた人物は誰か」という観点からストーリーをつくることは、非常に楽しくワクワクするものでもありました。歴史の勉強をしていくなかで、私自身「この人おもしろい! もっと調べてみたいな」と思えるような魅力的な人物に何人も出会え、それが仕事を進めていくうえでの強い原動力となりました。本書のシナリオも、そんなワクワク感が伝わるよう意識して書いたつもりです。読者の皆さんにも、歴史の大きなうねりや、そこに生きる人たちの熱い思いを感じてもらえたらうれしいです。

論文などの文章を書くことは多いものの、まんが化に協力をする経験は初めてで、このお仕事はとても新鮮でした。私は江戸時代が専門なので、たとえば、天皇の勅使が来たときに将軍とどう対面するのか、当時の掛け軸にはどんな絵がかかれていたのかなどについても細かく調べて、編集者にアドバイスをしました。ほかにこだわった点は、まんがが江戸(東京)を舞台にしていることが多いので、巻末図録では極力地方のものごとを扱うということです。日本史は史料にも恵まれ実証研究が進んでいるのでその成果を盛り込むようにしました。歴史の勉強は「覚えなきゃ」と思った瞬間につまらなくなります。まずは興味を持ったところから、とにかく楽しんでもらえたらと思っています。

一般のまんがと異なり、歴史まんがは何よりも史実がベースにあるという点がむずかしくもあり、またやりがいもありました。シナリオライターさんや監修の先生からヒントやご指摘をいただきつつ、私自身も服装や髪型、建物の造りなど、取材に行ったり資料を集めたりしながらたんねんにまんがの絵をおこしていきました。そのため、通常のまんがの3倍くらい時間がかかりましたが、もともと古代史が大好きだったので、その時代をまんがにでき、非常に楽しかったです。まんがにする以上、単純に年表を割ったようなものにはしたくない、その時代にタイムスリップしたように感じられる臨場感があるものにしたい。そう思いながらかきあげました。日本史は本当におもしろい! 古代史なんて、まさにミステリー!それがお届けできたらと思っています。

私はイラストや文字を組み合わせて誌面をデザインする仕事をしています。自分が小学生の頃にも図書館に置いてあった学習まんがのデザインができると決まったときは本当にうれしく、感がい深いものがありました。ただ、私自身は歴史が大の苦手だったこともあり、今回は書店や図書館で読みやすそうなものを入手し、勉強するところからはじめ、あっという間に歴史が大好きになりました。そんな経験から、かつての私のような歴史ぎらいの人でも手に取りやすい本をめざしました。たくさんの情報を、いかに理解しやすく見せるかも工夫した点です。また長く愛されることに加え、日本らしさや新しさも表現できるよう意識しました。この本をきっかけに一人でも多くの方が歴史を好きになってくれたらうれしいなと思います。

通常の校正の仕事は、誤字脱字がないか、表記が統一されているかなどを見ていきますが、本シリーズの場合、歴史的事実に誤りがないかも確認する必要があります。そのため、たえず資料を参照しながらの作業となりました。印象的だったのは第1巻にある「環壕集落」の「壕」の字。教科書では「濠」が使われていますが、「水が入っていない『ほり』なので『壕』にします」と編集部から言われたのです。こんなに細かな点にまで気を配ってつくられているシリーズの校正に携わっているということをうれしく感じると同時に、身の引き締まる思いもしたのでした。校正・校閲は、多くの人の思いがつまった本の最後の仕上げをするところ。大変ではありましたが、実にやりがいのある仕事だったと感じています。

最初に編集部にうかがった方針は「子ども向けの本なので、手に取ったときにパッと目に入り、心がおどるような鮮やかな本にしたい」ということでした。そこで今回は、カバーに耐光インキを使用。耐光インキは太陽光や蛍光灯などの光にさらされても色あせないインキで、通常、駅貼りポスターなどに使われ、書籍にはあまり使用されません。耐光性に優れる一方で濃度感がなくくすみがちなため、通常のインキを混ぜることで鮮やかな発色を実現しました。また、本文のほうは強いながらも軽い紙が選ばれました。その結果、旧版より各巻で24ページ増やしながらも1巻あたり約40グラムの軽量化に成功したとのこと。数々のこだわりがつまった本シリーズ、少しでも多くの子どもたちの手に届くことを願っています。

子どもの本というのはくり返し読まれるものなので、がんじょうに作る必要があります。そこで今回、強い紙を用いながらも背に負担をかけないよう、PURという接着剤を使用。PURは通常ソフトカバーに使用するものですが、製本上の工夫で本シリーズのようなハードカバーにも使えるようにしました。これにより約3倍の強度を実現! 学習まんがでは初の試みです。簡単にこわれることがないようひっぱり検査なども実施。自信を持っておすすめできるシリーズとなりました。本シリーズは全20巻で初版だけでも120万部にのぼります。製本上のミスがないか、その一冊一冊を約2ヶ月間かけて人間の手と目でたんねんに調べています。一冊の本ができるまでには多くの行程があります。耐久性はバッチリですが、大切にかわいがりながら読んでくださいね。

「いわばチームの監督として全体のかじ取りをしてほしい」。編集部からいただいたのはそのような依頼でした。子ども向けであることからおもしろそうだとお受けし、全体の構成や歴史のとらえ方などについてアドバイスをしてきました。ふだんは予備校で教えているので、大学入試の実情もふまえ、まず近現代の割合を増量。つねに実践的であることを意識しました。その上でこだわったのは、子ども相手だからといってオブラートに包むのではなく、シビアな歴史もきちんと見せること。そうすれば読者である子どもたちが、過酷さを増していく今後の世の中を予見し、渡り歩いていくだけの力を養う一助になるはずだと思ったからです。本書で歴史の知識だけでなく、そうした人間力をも身につけていってくれたらと願っています。

アートディレクション:土岐浩一(ZUGA) デザイン・中面イラスト:軣野絵(ZUGA)  編集・ライティング:小元佳津江  表紙・巻頭イラストレーション・似顔絵・カット:大河原一樹

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6.本のつくり